序/CIの成立と展開 : コーポレート・アイデンティティ研究

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コーポレート・アイデンティティの成立と展開

 コーポレート・アイデンティティ(Corporate Identity)は、これまで様々な言葉で定義されてきたが、今日では概ね企業イメージを統一して望ましい経営環境を創りだす経営手法という意味で理解されている。その際の有効な手段としてデザインが活用される。しかしデザインの持つ可能性を最大限に活用する経営手法としてのコーポレート・アイデンティティが成立し、今日のような隆盛を見せるまでには様々な紆余曲折があった。
 本論ではその過程を追いかけ、各時代・地域における目立った事例の特徴を検証することで、コーポレート・アイデンティティの変遷を辿り、企業イメージを統一して望ましい経営環境を創るという課題をどう解決してきたのかを検証する。また、その中で企業とデザイナーがどのような関係にあったのか、時代背景や社会背景、また思想や芸術運動は企業とデザイナーにどんな影響を及ぼしたのかを考察し、そこからコーポレート・アイデンティティの成立と展開を明らかにしてみたい。

 第一章では、起源と言われるペーターベーレンスとAEGの事例を検証することでコーポレート・アイデンティティの発祥について考察した後、現代のように高度に体系化されたコーポレート・アイデンティティが成立するまでの経緯を追う。またこの章ではアメリカとヨーロッパにおいて現代的コーポレート・アイデンティティが成立する条件を抽出する。
 第二章では、成立後のコーポレート・アイデンティティがどのように展開していったのかを事例を追って検証する。ここでは営利企業に限らず公共組織や催事にコーポレート・アイデンティティ手法を応用した例も取り上げて、展開の方向を見て行く。そして1990年代中頃に、コーポレート・アイデンティティが企業ブランディングの一部へと次第に移行していく過程にまで触れる。
 第三章では、主にコーポレート・アイデンティティの成立時に顕著であった地域(文化圏)別の特徴を取り上げ、そのあり方の分類を試みる。やがて文化の混交によって明確な差を見分けることは困難になるのだが、過去における企業及びデザイナーの倫理観や創造性の違いを知ることは、今後ますます文化が混交して行く中にあって相互理解を助けるものになると考える。

 検証する事例の選択については、社会的に一定の評価を得ている事例の中から、本論の目的であるコーポレート・アイデンティティが成立する契機やそのヒントを含んでいると思われるものを選んだ。成立期まではその過程を深く見て行くために、重要と思われる事例をできる限り少数に絞り込んだ。展開期における爆発的とも言える事例の増加以降は、包括的に見て行くために重要と思われる事例のみ取り上げて検証する。

 コーポレート・アイデンティティという呼び名にしても、過去には様々な呼称があった。
 1950〜60年代の日本においては、勝見勝(1909-1983)らによってデザイン・ポリシーという言葉でその概念を紹介され始めた。しかし勝見自身が、デザイン・ポリシーという呼び方は一例でしかないことを認めている。
「われわれはdesign policyという用語を使っているが、これはどちらかというと、イギリス流なのである。アメリカではむしろface of the firmとか、corporate identityとか、corporate characterとか、corporate imageなど、いろいろな言葉が使われてきた 。」
 現代においては、コーポレート・アイデンティティと呼ばれることが通例となっているので、本論ではこの用語を採用する。
 また日本において、コーポレート・アイデンティティはCI(シー・アイ)という略称で呼ばれることが多い。これは日本独自のものだが、1980年代の日本における「CIブーム」以降は、欧米諸国でも通用するようになってきているという 。本稿では、基本的に「コーポレート・アイデンティティ」と表記し、略称が望ましいと思われる場合は「CI」を用いる。
 CIの類義語に、VI(Visual Identity)という言葉がある。CIが「理念」「行動規範」「視覚要素」から形成されると言われるのに対して、視覚的統一計画であるVIはそのうちのひとつである「視覚要素」のみを指す。SI(Shop IdentityやSchool Identity)、BI(Brand Identity)、PI(Personal Identity)などは、CIの概念を企業体以外にも応用した派生語である。




見勝

1950〜60年代の日本においては、勝見勝(1909-1983)らによってデザイン・ポリシーという言葉でその概念を紹介され始めた。しかし勝見自身が、デザイン・ポリシーという呼び方は一例でしかないことを認めている。